労働者の労働時間の把握は、使用者の責務により行わなければならないことになっています。
個々の労働者の始業と終業の時間を管理し、所定労働時間を超えて業務に従事した場合には、超過時間分に応じて賃金を支払う必要があります。
誤った知識で労働時間の把握を行うと、未払い賃金のトラブルにつながる可能性もあります。
このページをお読みいただいて、貴社の労働時間管理に不安を感じたなら、見直しのきっかけにしてください。

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労働時間とは使用者の指揮命令下で業務に従事している時間

労働時間とは、労働者が使用者に労務を提供し、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。使用者の指揮命令に服しており、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に当たります。

厚生労働省で作成された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、労働時間に当たるものとして、次のものを挙げています。

  • 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
  • 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
  • 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

これらの例以外の行為については、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれているか検討し、個別具体的に判断することになります。

労働時間の把握のために使用者が講ずべき措置

冒頭で説明したように、労働時間は使用者が責任をもって行わなければなりません。
企業が始業・終業時刻を管理する場合に望ましい方法として下記の方法が挙げられています。

始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

  • 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること

自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置(例外的な方法)

原則的な方法をとることができず、自己申告制により始業・終業時刻の確認を行う場合には、次のような点に留意する必要があります。

  • 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
  • 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
  • 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
    特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
  • 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。 その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
  • 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。
    また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
    さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

タイムカードの打刻の通り、賃金を計算しなければならないのか

上記のガイドラインで説明をしたように、始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法は客観的に確認できる方法で行うことが原則です。その方法の一つであるタイムカードを用いて記録しているのであれば、タイムカードの通り賃金を計算することになります。

もし労働者の自己申告をもとに賃金の計算をするのであれば、勤務場所に労働者がいたにも関わらず、労働時間として計算しないのであれば、労務の提供が行われていなかったことを企業側が証明する必要があります。
就業規則で時間外労働をする場合には事前申告をしたり、許可を受けてするようにしている場合があります。
このような場合に事前申告がなかったから時間外労働分の賃金を支払っていないということが見受けられますが、注意が必要です。

このような場合であっても、タイムカードの始業・終業時刻を定期的に確認し、打刻時刻との間にズレがないか確認する必要があります。もしも打刻時刻とズレがあるのであれば、従業員が時間外労働の申告をせずに残って仕事をしているかもしれませんし、従業員同士おしゃべりをしているかもしれません。

おしゃべりをしているのであれば労働時間ではありませんので、賃金は発生しませんが、何らかの仕事を行っている場合には調査をしたうえで、賃金を支払う必要があります。

  • その仕事は所定労働時間に行うことができないのか?
  • 突発的な仕事なのか?通常業務の範囲内の仕事なのか?
  • 今やらなければならない仕事なのか?
  • 時間外労働の事前申請をしにくかったり、許可を受けにくい環境になっていないか?

時間外労働を事前申告にしたり、許可を求めるようにしたとしても、従業員から申告がなかったことを理由に支払わなくて良いということにはなりません。

繰り返しになりますが、労働時間の管理は会社側に責任があります。所定労働時間の範囲外の時間に不必要な作業を行っているのであれば、使用者は従業員に帰るように命じなければなりません。それを行わず、従業員が時間外に労働をしているのであれば、時間外労働の申告の有無にかかわらず、時間外分の賃金が発生することになります。